2010年04月21日

一番の仲良し (Your closest friend)

男組の週末、再び

感謝祭休みの最後の週末、ふと思い立って息子鈴吾郎(りんごろう、7才)と釣りキャンプに行きました。「男組の週末」です。
 鈴吾郎と僕は、昨年から釣りを始めました。夏休みに滞在したパンビュラ海岸では、カワハギやコチを釣りました。我が家から一時間のヘイスティングスの波止場にもよく行きます。釣りの味をしめた鈴吾郎は、「釣りに行く?」と、声をかけると、「うん、行く、行く!」と二つ返事の今日このごろです。

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 キャンプ道具を車に積んで、メルボルンから東に150キロ走ります。最後に国道を折れると、そこは、がたぼこ道。真っ青な海に向かって3キロほどごとごと走ると、その先がベアガリー海岸という自然公園。ここには建物も店も水道も何もありません。あるのは自然のままの海岸だけ。

父に連れて行ってもらった釣り

 僕も小さかった頃は、父(児童文学者、渡辺茂男)に連れて行ってもらいました。磯釣り、川釣り、ワカサギ釣りなどです。静岡生まれの父は、子ども時代から安倍川や駿河湾でよく釣っていたようです。終戦の頃の父の古い日記には、「仕事もなく夢もなく、無為に釣り糸を垂れていた」とあります。そんな辛い記憶のせいか、或るときから父は釣りをしなくなります。そんな時期が15年ほど続いたでしょうか。やがて父は伊豆に山荘を建て、それを機会にまた釣り道具を揃えました。富戸や伊豆高原、伊東や松崎などの岸壁から、僕は何度か父の横で釣り糸を垂れました。ティーンエージャーの生意気盛りだった僕は、父とよく衝突しましたが、釣り糸を垂れている時はそんなことを忘れることができました。そればかりか、時には父と「親友」であるかのような安堵感さえ持つことができました。

僕と鈴吾郎の釣り

 オーストラリアでも釣りは人気のある娯楽です。お金のある人は、何百万もする豪壮なクルーザーで大物を狙います。庶民は、岸壁や岩場から小物を釣ります。父子で釣り、という人もたくさんいます。
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メルボルン水族館にて、鈴吾郎

 ベアガリーのキャンプ場につくと、僕と鈴吾郎の男組二人、テントを張るやいなや、さっそく竿を下げて海岸に出ました。鬼の洗濯板のような岩場がどこまでも続き、その向こうで白波がくだけています。海岸の一方は低い岸壁です。

 「いいぞ、雰囲気が出てきたぞ」僕の口から言葉が漏れました。
 「雰囲気が出てきたね。雰囲気って何、パパ?」と、日本語の難しい言葉を知らない鈴吾郎が間抜けなことを言います。
 「釣れそうだってことさ」と、僕が言います。すると鈴吾郎は、
 「ウァッハハハ! ようおし!」と、飛び上がって喜びます。

 最初に近くの低い岩場から糸を垂れてみました。すぐ下は海藻が茂っていて、すぐに仕掛けが取られてしまいます。「だめだ、こりゃ」と、海岸の端っこの岩場に移動しました。重めのおもりに付け替え、糸を遠くまで飛ばします。鈴吾郎はいつの間にキャスティングのこつを覚え、上手に糸を投げます。
 すぐにピクピクッと「あたり」があります。リールを巻くと餌のエビが盗られています。
 「おお、何かいる!」と、鈴吾郎が歓声を上げます。
 二度、三度、リールを投げます。
 「かかったぁ!」鈴吾郎が、リールをくるくる巻きます。
 緑がかった小振りの魚が元気よくくねっています。
 「やったぁあ!」父子で万歳します。

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パロットフィッシュを釣った鈴吾郎

 「これは何かな?」僕は、魚を手に持ち、魚の種類がリストしてある小冊子をめくります。オーストラリアでは種類ごとにキャッチ・アンド・レリース(小さな魚は釣っても逃がす)の決まりがあり、ある程度の大きさにならないと持ち帰れません。
 「これは、きっとパロットフィッシュ(「パロット」はオウムの意。ベラのような魚)だな。23センチ以下は海に返さないといけない。」
 釣れたのは19センチ、小さすぎです。鈴吾郎がよく見たいと言うので、しばらくバケツの中で泳がせておきました。
 また糸を垂れます。しばらくしてまたかかりました。今度はフグでした。
 「何だ、トードフィッシュだ(「トード」とは、ガマガエルの意)」鈴吾郎は、フグを海に放り投げます。まるで一人前の釣り師です。

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万国共通、フグ

 この後は、当たりがありません。やがて陽も傾いてきて、お腹も空いてきました。「今日はここまでだな」
 キャンプ場に戻り、でっかいステーキとソーセージを焼いて食べました。鈴吾郎は、キャンプファイヤーでマシュマロを焼きました。僕は、赤ワインを飲みながら、隣のキャンピングカーの老夫婦と焚き火を囲んで世間話をしました。
 「明日は、朝の9時頃から潮が満ちてくるから、そのころなら釣れるよ」と、夫のロッドが教えてくれました。
 鈴吾郎と僕は、寝る前に海岸に出て夜空を見上げました。テントに戻ると、二人で懐中電灯で「タンタン」の漫画を読んでから寝ました。テントから20メートルほどで海岸なので、まるで波が頭の中でくだけているようでした。お陰で頭がすっかり空になり、ぐっすり眠れました。

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 ベアガリーの朝日

 翌朝は9時半から海岸に出ました。引き潮で、鬼の洗濯板は昨日よりずっと遠くまで続いています。「いやあ、こんなで釣れるのかなあ…」僕は、ため息をつきます。でも、ロッドが言った通り潮が満ちてきているので、魚も上がってくるはずです。
 「ようし、いっちょうまた岩場からやってみるか」と、二人で鬼の洗濯板をどこまでも歩きます。
 波打ち際まで来ると、すぐに鈴吾郎が糸を投げます。
 ところが、すぐに海藻に仕掛けを取られてしまいました。「こんにゃろ!」と鈴吾郎が悪態をつきます。そんなことが2度、3度。針が沈みすぎるから、海藻にひっかかるのかも?そう思った僕は、仕掛けに浮きをつけてみました。こうすれば針が少し浮きます。

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 鈴吾郎がまたキャスティングをします。
 そして、すぐに歓声をあげました。「あっ、釣れたあ!」
 たぐり寄せると、昨日釣れたパロットフィッシュです。
 「あ、またキャロット・フィッシュ(人参魚)だ」鈴吾郎が言います。
 「違うよ、パロット・フィッシュだ」僕が訂正します。
 測ってみると、21センチ。「あと2センチ足りないな。」
 レリースして、またキャスティング。僕は、また海藻に仕掛けを持って行かれます。
 「あ、またかかった!」すぐまた鈴吾郎が叫びます。
 引き寄せると、またパロットフィッシュ。今度は大物25センチ。
 「これは持って帰れるぞ!」僕が言うと、
 「ママに見せられるね!」鈴吾郎、満面の笑みを見せます。
 それから、30分ほどは、入れ食い状態で次々パロットフィッシュが釣れました。仕掛けも大分取られ、釣り針も足りなくなり、最後は鈴吾郎だけが釣っていました。それでも全部で12匹釣れました。持って帰れるサイズは二匹。これでも大漁です。
 「針も餌もなくなったし、そろそろ帰ろう。」僕は、頃合いを見て言いました。
 僕たちは、幸福な気持ちではち切れそうになりながらキャンプに戻りました。鈴吾郎は興奮して、大きな声で何かをずっと歌っていました。
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 「ああ、腹減ったあ」と、鈴吾郎が言います。昼は、キャンプのときだけ登場する「出前一丁」のインスタントラーメン。オーストラリア育ちでも、鈴吾郎は「ず、ずーっ!」と派手な音を立てて麺をすすります。

IMG_1717.jpg出前一丁、トンコツ味(オーストラリア版)

 昼飯を食べて、キャンプを畳み、荷物を車に積み込みます。
  でも、まだ最後の仕事が残っています。
 「さて、」僕は、魚の入ったバケツ、ナイフと鱗をとる道具を持って、もう一度浜に降ります。バケツの中で魚が跳ねます。
 「何するの?」鈴吾郎は尋ねます。
 「うん、魚をきれいにして、持って帰るんだ。」
 僕は、魚の頭の脊椎の辺りにナイフを突き立てます。びくっと魚が手の中で硬直して動かなくなります。それから、腹を切って中をきれいにします。
 「うげえ、気持ち悪い」鈴吾郎が言います。
 鱗もはがします。鈴吾郎は遠巻きに眺めています。僕も小さい頃、魚が気持ち悪くて触れませんでした。父が同じことをするのを気持ち悪く思ったものです。でも、今は平気で出来るようになりました。

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 「かわいそうだけど、こうやれば魚を食べることが出来る。僕らが美味しく食べてやると、魚は僕らの一部になる。だから、魚は僕たちの友達なんだ。」
 二匹のパロットフィッシュをていねいに新聞紙にくるみながら、僕は言いました。
 
Your closest friend

「さあ、帰ろう」僕が言うと、鈴吾郎は「まだ、帰りたくない」と言いました。僕も後ろ髪を引かれる思いでしたが、明日から学校です。
 車は、国道までのガタボコ道を埃を舞い上げながらゆっくり走ります。 
 車のステレオにCDを入れます。知り合いのミュージシャン、スティーブン・ドゥーリーのCDです。スティーブンは、今はクイーンズランドに住んでいます。透明なギターのイントロが流れ、スティーブンの声が流れます。

「あれからずいぶん時がたって、今は手元に古い写真が残っているだけだけど、僕と君は、確かに一番の仲良し(your closest friend)だったよな。」*


 鈴吾郎が言いました。「今度は、もっと長くいようよ。もっとたくさんキャロット・フィッシュが釣れるから」
 「そうだな、また来ような。魚いっぱい釣ろうなあ」僕も、そう返事しました。

*Stephen Dooley CD ‘Your Closest Friend,’ 2000

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ベアガリー自然公園の真っ青な海

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塩焼きになったパロットフィッシュ(白身で美味しかったです。)
posted by てったくん at 11:17| Comment(1) | TrackBack(0) | 子育て