2019年11月14日

四国サイクリング旅行 version 2 (2019年10月13日から26日)

前置き:

2017年11月中旬から12月上旬にかけ、僕は一人で自転車に乗り、高知を皮切りに、四万十川、足摺岬、宇和島、八幡浜、松山、今治、しまなみ海道を通って広島の尾道まで、時計回りに四国を半周した。十二日間かけて走った距離は800キロ。そして今回はその第二弾として、2019年10月中旬から下旬にかけて十二日間、徳島市から時計回りに、高知、阿波池田、香川に入って、善通寺、高松、小豆島を走り、また徳島県に戻り、鳴門の渦潮を見て徳島市に戻る自転車旅行を行った。前半4日間は、中学の同級生であるT村君と我々の恩師であるT屋先生が同行した。彼らとは230キロばかり走り、僕自身は730キロ走った。これで四国をほぼ一周したことになる。その今年の旅行について、以下に書く。

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小豆島にて

第一話: 一日目、徳島まで

「始まりの前には混沌がある」(易経)

十月十二日、台風19号は、関西地方から日本に上陸して関東地方に向かった。その過程では、千葉と長野に重大な被害を及ぼしたことは我々の記憶にまだ生々しい。台風は去っても、被災地の皆さんはまだ復興の最中にある。

さて、旅の始まりは、仕事で和歌山に滞在していた僕の頭上を台風19号が通り過ぎた十月十三日朝だった。東海道および山陽新幹線をはじめとしたJ R各線はまだ止まっていたが、関西空港へ向かうリムジンバス、そして関西空港から徳島を繋ぐバスは、始発から動き始めていた。台風のせいで一日長く缶詰になっていたホテルを早朝抜け出し、僕は関西空港へ向かう車中の人となった。

友人T村君のことなど

その頃横浜市緑区では、今回のサイクリング旅行の最初4日間を同行するT村君が自宅で天気が回復するのを待っていた。彼は中学の同級生だ。中学高校時代二人は、一緒に日本中銀輪を駆って走ったものだ。

サイクリング友達T村との旧交が復活したのは昨年2018年だった。僕は、普段オーストラリアに住んでいるのだが、近年はメルボルン近郊を自転車で走り回っている。そのことを時々Facebookに載せていたのだが、それに対して、あるときT村が「昔はよく一緒に走って楽しかったなあ」と述懐した。僕は、「そんなこと言ってないで、また一緒に行こうよ」と返答した。Facebook上の会話はさらに続いた。「でももう自転車がないよ」、「また買えよ、5万も出せば今は良いのが買えるぜ」。そして、僕が昨冬帰国した際、試しに二人はレンタサイクルを借りて、T村の住む横浜近郊を走った。T村の自転車熱はそれで赤々と再燃し始めた。それから間もなく、T村は英国の名車ラーレー号を購入し、鶴見川の土手道などを走りはじめた。少し後の話だが、そのせいで彼の体脂肪率は5%ほど下がったと言う。まさにサイクリングの素晴らしき効用と言うべき他はない。

そのT村は、僕が2年前から計画していた四国サイクリングversion 2の計画を聞くに及ぶと、忙しい仕事の合間に休みをとって、最初の数日同行することを決意した。サイクリングは、古い友情の復活に見事に寄与したのだった。

79歳のT屋先生、「俺も行きたいずら」と言う

ところが、四国サイクリング計画にのってきたのは、T村だけではなかった。我らの中学校の恩師である、沼津市在住のT屋先生も、本計画を聞き及んで「俺も行きたいずら」と言い出した。T屋先生は79才である。そんな高齢者に四国サイクリング旅行はできるのか?登り坂で心臓麻痺をおこして死んだら?そんな疑問がいくつも浮かび、僕は心配した。そこで僕とT村は、近年のT屋先生を知る同級生など各方面にそれとなく様子を聞いたが、その結果T屋先生は、我々よりもはるかに健康であることが判明した。そればかりか、T屋先生の家は長命で知られていて、T屋先生の御母堂は、現在100歳を超えても伊豆の山で畑仕事に勤しみ、自給自足の生活をしているという。T屋先生曰く、「俺の心配は、お袋みたいに長生きしちゃうことずら」。長寿国日本、恐るべしである。

79歳とは言え、T屋先生はゴルフの腕前はシングル、自転車について言えば、日頃はお住まいの沼津から静岡や伊豆に向かって100キロほどを飛ばすだけでは物足りず、実業団の選手などと一緒に全国津々浦々を走り回っていると言う。「琵琶湖一周200キロなんて、二日あれば十分だら」と、涼しい顔でおっしゃる。となれば、問題はT屋先生ご自身よりも、T屋先生に我々がついていけるかどうかである。

そんなT屋先生であったが、スケジュールがお忙しいと言うことで、一日だけ高知で合流することになった。そのために、わざわざ沼津から羽田へ自転車抱えて電車で移動し、さらにそこから飛行機で高知まで飛んで来るとおっしゃる。こうなったらT村と僕は、石にかじりついてでも高知まで行かなくてはならない。

四国サイクリング旅行 version2の旅程について

さて、T村と僕は、最初の予定では、和歌山で合流し、そこから南海フェリーで徳島へ渡り、時計回りに海岸線を西に向かい、牟岐町、室戸岬を経て高知まで、200キロ強の行程を三日かけてゆっくり走る予定だった。そして高知でT屋先生と合流し、高知周辺をゆるりと三人で自転車で歩き、美味しいものでも食べながら昔話でもして大いに笑おうという算段だった。その後は、T村とT屋先生は高知から空路帰宅し、僕だけ四国旅行を続ける予定だった。

その僕自身のソロツーリングの予定だが、高知の後は四国山地を超えて大歩危小歩危を廻り、阿波池田から山越えで香川に抜け、善通寺や金比羅さんに詣でてから高松に入る。そこからフェリーで小豆島に渡って一周し、また高松に戻り、鳴門の渦潮を見てから徳島までという手筈だった。さらに余裕があれば、吉野川沿いを走って初秋を満喫し、その後東京に戻るという合計12日間の急がない旅程だ。

ナポレオンのごとく諦めないT村

T村と僕が一緒に走るのは、実に35年ぶりだ。そこへ 担任だったT屋先生も加わるのだから、僕たちの鼻息は大いに荒くなった。

ところが、そこへ台風19号だ。その結果、徳島へ渡るフェリーは荒波で欠航、J R西日本も新幹線もことごとく不通、T村が乗ってくるはずだった羽田発の関西行きフライトも12日は全便欠航、高速道路も交通止めと、我々の出発は尽く阻まれた。

そこでT村と僕は、12日に合流する予定を13日に繰り下げ、僕は和歌山のホテルで、T村は横浜の自宅で待機し、一晩中天気予報と交通情報のウエブサイトを睨んで夜明かしした。

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嵐の前の静かな空(和歌山にて)

十二日晩であるが、僕はホテルでテレビの天気予報とニュースを睨んでいたが、その間もT村からのアップデート情報が携帯に次から次へと飛び込んでくる。あまりに状況が過酷なので、僕はいったんは、みんなで一緒に四国を走るのを諦めようと考えた。そこで代替案を考え、東京から遠く離れた四国を走るより、もう少し近くの伊勢志摩とか琵琶湖周辺を走ったらどうかと、T村にも相談した。

ところがT 村は諦めない。彼は筋金入りのセールスマンである。それも、女性に台所のキャビネットを売る仕事を30年もしているのだ。T村は、財布の紐が固い女性に高価な商品を売ることで、逆境に強い、強靭な人間に成長していた。少年時代の彼は、精神的に柔なところがあって、自転車で急な峠を登ろうものなら、すぐに顎を出した。挙句に自転車ごとヒッチハイクをして、大いに男を下げたこともある。しかし、30年の女性相手の営業生活で彼は大いに鍛えられていた。そんなT村は、まるで冬のモスクワを攻略するナポレオンか、砂漠の虎と言われたロンメル将軍のように、最後まで希望を捨てず、天気予報を血眼で分析し、どうすれば明日中に四国徳島まで辿り着けるか交通情報をくまなく検索して余念がないのだった。


鷲は明日の夜飛び立つ!

でも、誰がどう見ても、明日中に僕たちが徳島で合流できる望みは薄かった。望みも尽き、そろそろ寝ようかと思った頃、T村から最後のメッセージがきた。「鷲は明日の夜飛び立つ! 明日夕刻の徳島行きフライトが予約できた。」天は我らを見捨てなかったのだ。思わず携帯電話を握り締め、ホテルの部屋で小躍りしてしまった。

翌朝、僕は早起きして走りはじめたバスに飛び乗った。まずは和歌山から関西空港まで、そこで乗り継いで大阪、神戸、淡路島をひた走った。そして昼すぎにはもう徳島入りし、駅ビルでうどんを食べていた。

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折りたたんだ自転車を担いで四国へ向かうバスに乗る

ホテルにチェックインし、ぽかっと空いた午後の時間、僕は徳島の町外れの眉山という山に登った。台風一過で青空が広がり、山頂からは太平洋沿いの山並みが見えた。その向こうは室戸岬、そして高知だ。気分は坂本龍馬だ。待ってろよ、俺たちは明日そちらへ行くぞと、僕は高知の方を見据えて呟いた。

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徳島、眉山からこれから向かう太平洋岸を望む

夜の帳が降りた頃、T村が徳島阿波踊り空港にタッチダウンした。空港バスから、折りたたんで袋に入った愛車ラーレー号を抱えて降りてきたT村は、満面の笑みを称えながら、「ついに来たぞ!」と吠えるように言った。二人は堅い握手を交わした。

その夜、日本対スコットランドのラグビー戦が行われた。我々は、その試合をホテル一階のカフェで観戦した。カフェの客が固唾を飲んで見守る中、日本勢は、強豪スコットランドを堂々うち負かし、ベストエイトに進出した。

ラグビーのお陰もあって、我々の士気もこれ以上ないくらい高くなった。いよいよ旅が始まる!

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日本を旅する僕の相棒「フジコちゃん」(Fuji Feather CX+)
(続く)



posted by てったくん at 09:16| 日記