メルボルンはまだ夏。冬の日本から戻ってきた女房が、彼女の仕事部屋の扉に網戸をつけてくれとリクエストした。僕は、正月明けから執筆に燃えてパソコンのキーを叩いてばかりいたので(嘘ばかり)、右腕が少々腱鞘炎気味で、あまり仕事もできない。そこで、渡りに舟とばかり、仕事をサボることにして、網戸をつける作業に従事することになった。

ペンキを剥がしかけの古い網戸

ペンキが剥がれかけの、醜い表面
網戸をつけるのは、彼女の部屋から庭に出入りするドアだ。ちょうど2、3年前の粗大ゴミの時に拾ってきた古い木製の網戸ドアがあったので、これをリサイクルすることに。ところが、これが思ったより10倍大変だった。網戸を洗うのと汚いペンキを剥がすのに5日、取り付けに2日かかってしまった。
古いペンキは剥がさなくても、そのまま上から塗れば良かったのに、うっかり缶に少しだけ残っていた剥離剤を一部に塗ってしまったことが最大の災いになった。剥離剤を塗ると、わらわらとそこのペンキが剥がれだす。そこで、もう後には引けなくなり、全部剥がすことになってしまった。剥離剤が足りなくなったので新しく買ってきたのだが、今度はエコっぽくて、体にも優しい高級な剥離剤を買ったら、効き目がスローでなかなかペンキが剥がれてくれない。そんなで待ち時間がえらく長くなった。
僕が外でゴソゴソ作業をしていたら、今度は、娘が、布団ソファを作ってくれとリクエストしてきた。彼女は、先週からメルボルンのシティの、大学近くのアパートで暮らすことになったのだが、そこで使うソフアがないのだという。ちょうど使ってない一人用の布団があるので、これを三つに折りたたんでソファにして使えばいいと言うのだ。その布団を支える簡単なフレームを作ってくれと言う。それは良い考えだ。そう言えばイケアでも、そんなソファを売っていたかもしれない。そこで、網戸のペンキが剥がれるのを待つ間に、余っていた木材やら古いキャンプ用テーブルやらを再利用してフレームを作った。3時間ほどで結構洒落た布団ソファができてしまった。

イケアでも売れそうな布団ソファ

一方、エコな剥離剤は、効き目が緩やかなので、待てど暮らせど、ペンキが剥がれてくれない。一晩塗っておいて、やっと翌朝ペンキが剥がれてると言う、そんなペースだ。こんなことをしているうちに僕は老人になってしまう。老人がこの剥離剤を使ったら、前期高齢者が後期高齢者になって、寿命が尽きて死んでしまうに違いない。とにかく、そんなで、ペンキをはがすのに都合5日もかかってしまった。最後にサンダーで磨いたら、素晴らしい下地が現れた。そこに、ペンキを塗ったら、せっかく磨いた下地が隠れてしまった。一体何のためにサンダーで磨いたのか分からない。とにかく、ドアのペンキ塗りを済ませ、新しい網も買ってきて張って、ドアを取り付ける段になった。ところが、最初に測ったはずなのに、ドアがまだ2ミリほど長すぎて、枠に付けられない。仕方ないので、ドアをまた外してカンナがけをした。おかげで、外枠のペンキもまた塗り直し。

素晴らしい仕上がりの網戸のドア

取り付けも完了
1週間経って、やっと完成。こういう仕事は、やってみると本当に大変だ。その割に、たかだか網戸の取り付けなので、それほどの達成感や満足感があるわけでもない。女房は一応、「とても素敵。ありがとねー!」と褒めてくれたのだが。せめてもの慰めに、自分で、大きなステーキを焼いて食べた。
メルボルンの残暑はまだ厳しい。夜、寝床で久しぶりに夏目漱石『三四郎』を開くが、大して読まないうちに、くたびれてバタンキュー。
幸い腱鞘炎だけはほぼ治った。