2017年08月17日

ロフテッド軌道なこの頃

2017年8月17日

上から、危ないものが降ってきそうな日々である。

北の方に住んでいる将軍様がミサイルを打ち上げ、物議を醸し出している様子が連日ニュースで報道されている。我が祖国日本にも大いなる影響が出始めているし、遠くの、ほとんど危害を受けそうもないオーストラリアの首相まで「ミサイル防衛!」とか言い出してとても物騒になってしまった。私も、そんなで、ついニュースに釘付けになってしまう。

そんな中、北海道の沖合に弾道ミサイルが落ちた時、ニュース解説に 「ロフテッド軌道」(通常より角度をあげて高く打ち上げる方式)という 言葉が出てきた。数学に弱い私は、こういう複雑な物理の概念は自分の日常には全く縁がないだろうと即座に考えた。そう考えつつも、頭上に弾道ミサイルが(例え破片でも)落ちてきたらさぞ恐ろしいことだろうと乏しい想像力を駆使して考えた。

翌朝、メルボルンには強い風が吹いていた。用事で我が家に立寄った大工のギャリーが、大きなユーカリ木の梢を指差し、「あの枝、折れそうだよ」と言った。

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問題のユーカリの木

見上げると、確かに、ある大きな枝の根元の皮がハゲて、生木が表出している箇所が見える。風で揺られてダメージを受けたのか。その枝は地上5メートルの高さにあり、横に3メートル張り出している。根元の太さは15センチもあるだろうか。それだけならまだしも、その張り出した太い枝は、私の愛車スバル・リバティー(日本ではレガシー)2006年型と、娘のトヨタ・カローラ2004年型の上で、強風にゆらゆら揺れているのだ。私と娘の車が製造10年以上たつ中古車であることはこの話の趣旨と全く関係ないが、こういう古い車でも、私たちは大切に日常の足として使っているのだ、ということを主張したいためにあえて付記した。

そして、その太い枝には、さらにもっと 折れそうなボロボロの枝が2、3本ついている。どうして気がつかなかったのだろう、この枝の一本でも折れて下に落ちれば、車の屋根は潰れ、窓ガラスは粉々に砕けてしまう。もし枝の根元から折れたら間違いなく車は廃車となるだろう。

今すぐそこにある危機に突然直面し、私は言葉を失ってしまった。 北の方の将軍様が、色々危険な兵器を製造しているのを知っていながらも、最近まで特に何もしなかった米国の大統領たちも、そんな気持ちなのかもしれない。

実を言えばこの枝については、私がこの家を17年前に買った時点から、気になっていたことは確かだ。ただ、この木は隣家の敷地に立っているので、枝を勝手に切るわけにはいかない。隣には、ニブとケイという退職した夫婦が住んでいる。この二人に、この木のことを相談し、数年前には、実際に枯れ枝を切ってもらったこともある。切ってくれたのは、長男のサイモンである。サイモンはビクトリアのモーイという田舎町の営林署に勤める木こりであるから、スルスルっと木に登って、チャチャッと大きな枝を切ってしまった。

そこで、今回もニブ とケイに相談しに行った。隣家の家のドアベルを鳴らしながら、自分が38度線越しに、北の将軍様に対話を求めている韓国の「文」という名前の大統領に似ているかもしれないと感じた。文大統領と私は、実は同じようなメガネをかけているし、ちょっと顔つきも似てないこともない。ただ、文さんの方が私よりも頭髪はフサフサしているようだ。でも、もしかしたらアデランスかもしれない。しかし、髪はともかく、総合的ルックスでは、私は負けていないと自負している。この間書いたブログにも、バンコクを訪問した際に、私がタイの故プミポン国王に似ていると、日本人女性たちがキャーキャー騒いだことを書いた。自分で書くのも僭越だが、私がここまで世界の指導者たちに似ているということは、単なる外見上の問題ではなく、私の内部から溢れ出てしまう知性や人徳、カリスマ性のせいなのだと疑わざるを得なくなってくる。

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やっぱ、あんまり似てないか?

さて、枯れ枝に話を戻すが、北の将軍様とは違って、ニブはすぐにドアをあけ、即座に対話に応じてくれた。私は言った。「例のお宅のユーカリの枯れ枝なんですが、実は根元から折れそうなんです。枝の根元の皮が剥がれてきているし、この強風だし、切っちゃうわけにはいかないですかね?」

「そりゃあ、いかん、切ってしまおう」とニブも同意した。 その横からケイも、「私なら、あの木の下には車は置かないわ」と言う。「じゃあ、木を見てみよう」とニブが腰をあげたので、外へ出て梢を見上げた。

「ああ、こりゃあいかん。切らないとダメだ。でも、どうしよう、サイモンはちょっと最近忙しくて、すぐにはきてくれないぞ」と、ニブは言う。

私たちは、しばし腕組みをして考えた。ニブはもう72歳の老齢だし、私だって、木登りは得意ではない。木に登らずに枝をはらう方法はあるか?

その時、閃光のように、私の脳裏に「ロフテッド軌道」という言葉浮かんだ。物理の法則を実地に移す機会であること私は認識した。あまり素晴らしい思いつきなので、これを記念し、「8月7日革命」と呼ぶことに決めた。

「ロープを投げて引っ掛けて、枯れ枝を折っちゃいましょう。ロフテッド軌道の応用ですよ。簡単なことです」と、私はニブ将軍に提案した。ニブは即座に、「そりゃあいい考えだ。そのロープを、車に結んで引っ張れば、あの枝はたちどころに折れるだろう」と言った。そこで、翌日か、翌々日、風が弱まった時に、やっちゃいましょう、ということになった。


ロフテッド軌道で弾頭を飛ばす

翌々日に、ようやっと強風が収まったので、私とニブは、件の木の根元に集合した。私は、物置から、15メートルあるナイロンのロープを持ってきた。ただし、これに何か重りをつけなければいけない。私は工具箱から、スパナを取り出して結んだ。北の将軍様も、火星号ロケットの先っぽに何かをつけて飛ばしたらしいが、その弾頭は鋭角で大気圏突入した際に、摩擦熱で燃えてしまったという。だが、 私のスパナは、かなりの衝撃を受けても大丈夫であろう。そういう確信が私にはあった。だが、念のため、スパナはロープに二重固結びで結んだ。

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スパナの弾頭

「では、ちょっと貸してごらんなさい」と、ニブは言うと、スパナの弾頭をつけたローブをヒュンヒュン回し、枝に向けて放り投げた。格好は良かったが、なかなか思ったところには飛んでいかない。

数回やって、ニブは音をあげる。「腕が痛いから、代わってくれ」。そこで、私も放り投げてみる。結構腕力が必要で、何度も投げると、本当に腕が痛くなってくる。10回目くらいで、やっとお目当の枝に引っかかった。ところが、弾頭のスパナが軽すぎて、ロープは枝に引っかかって、下へ滑り落ちてこない。仕方がないので、ロープを 外し、もう一個スパナをつける。

さらに投げること10数回、やっと枝にかかる。今度は、スパナ二個の重さで、ローブが反対側にスーと落ちてくる。ここまでやってわかったことは、ロフテッド軌道で垂直に投げるのは、なかなか思った方角と高さに飛んでくれないので、高度な技術がいるということだ。水平に遠くに投げる方が、よっぽど楽である。きっと、北の将軍様も実験を重ねてきて、このことを痛感しているに違いない。ロフテッド軌道は、文字どおり「一筋縄」ではいかないのだ。

やっとロープが枝にかかったので、ニブと二人で、「えいや!」っと引っ張ってみる。ところが、折れそうだと思った太い枝は、全然折れてくれない。まだ中が生きているらしく、いくら引いても、曲がるだけだ。「こりゃダメだ。見ろ、枝の先っぽ にはまだ緑の葉っぱが少し生えている。まだ 生きているんだよ」とニブが指摘する。

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やっと引っかかったロープ

そこで、確実に枯れている枝だけを落とすことに専念した。おかげで、ロフテッド投げが二人ともうまくなり、大ぶりの枝を2本落とすことに成功した。太さ10センチ、長さ1.5メートルほどもある枝がドスンと落ちてくるのは快感だった。

「やれやれ、大変だったけど、面白かったのう」と言って、ニブは帰って行った。後には、薪にできるような枯れ枝が荷車いっぱいに残った。

こうして、 我が家の「8月危機」は沈静化した 。上から、危ないものが 降ってくるのは本当に困りものだ。北の将軍様にも、矛先を納めてもらって対話に応じて欲しいものだ。

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posted by てったくん at 13:36| 日記