2018年05月05日

40年で大木

2018年5月4日
メルボルンも秋。うかうかしていたら、もう五月。今年も3分の1が終わったしまったのか。やれやれ。でも、焦ったって仕方がない。マイペース、マイペース。

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いつも朝30分ほど散歩に行くが、その時、よくすれ違う近所の人たちがいる。ベルグレーブに住んで18年になるが、こちらは田舎でも日本ほど近所付き合いをしないから、あまりたくさんの人は知らない。でも、この頃よくすれ違う60歳後半くらいのおじさんがいて、ある時話しかけられて、それ以来仲良くなった。

名前はクリス、スイス人だった。なぜ話しかけてきたかと言うと、僕の車庫にある制作中のボートに興味を持ったからだ。「あれは、お前が作ってるのか?」「そうですけど、今は一緒に作っていた息子が興味を失っているので中断中。」「ヨットかモーターボートか?」「モーターボート。でも、まだエンジンは買ってないし、免許も持ってない。」「船の材料は何だ?」「合板とファイバーグラス。」「自分で設計したのか?」「とんでもない。イギリスのビルダーから設計図を買ったんだよ」と、こんな会話だった。クリスとは週に一回くらいすれ違う。家も5分くらいしか離れてない。

聞きもしないのに、クリスは身の上話もしてくれた。1970年代にバックパッキングでオーストラリアにきて、そのまま居着いてしまったと言う。仕事は製図で、スイス人だから器用だと思われて、メルボルンの大手の電気会社に雇ってもらえたそうだ。その仕事を7、8年前に定年退職した。仕事をやめたら、しばらく鬱っぽくなり、その上心臓のバイパス手術をしたりして、マジに健康を管理しないと死ぬと医者に言われたから毎朝真剣に散歩をしているのだそうだ。

でも、鬱はもう治ったらしく、クリスは話好きで、話し出すと止まらない(躁病?)。去年は、スイスのお姉さんが亡くなったので、5年ぶりにスイスに帰り、姉さんの遺産整理のために3ヶ月間滞在した。その間に美味しいチーズやらワインやら食べまくって飲みまくったら、10キロも太ったという。だから余計に散歩をする必要があるらしい。

「10キロとは、だいぶ太りましたね」と言うと、「そうだ、スペアタイヤ一個分だ」と、クリスはお腹をバンバン叩いて笑った。クリスは、キャンプとかブッシュウォーキングが大好きらしく、僕もそう言う野外活動は好きな方だから、そんな話をよくする。「このスペアタイヤのお腹を処分できたら、また山歩きをしたいね」とクリス。

家にもちょっと寄らせてもらった。木造のこじんまりした家だが、いかにもスイス人らしいウッディな装飾だ。庭には、白樺や松といった、北方の植物が植わっている。「ユーカリばっかり眺めていると飽きてくるから植えたんだ。40年経ったら、こんな大木になったよ。やっぱり秋は落ち葉を見ないと季節感が出ないから」とクリス。僕も全く同感。ユーカリの木は一年中同じ色だから、季節感がない。僕も庭に楓などの落葉樹が植えたが、やっぱり紅葉はいい。


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ユーカリの大木

「まるでスイスの家みたいですね」と言うと、クリスは顔をくしゃくしゃさせて笑った。「今さらスイスに帰って住もうとは思わないけど、家くらいスイスっぽくなくちゃ落ち着けないよ。」

クリスのは奥さんはオーストラリア人である。しかし、結婚してからスイス国籍もとったそうだ。息子が二人と娘がいて、子供達もやはりスイス国籍とオーストラリアの二重国籍だ。それができない日本人の僕は羨ましい。そして孫が全部で十人いると言う。「お孫さんが十人もいたら、とてもスイスには帰れないですね」と言うと、「うははは! そうだなあ、孫の顔が見られないのは寂しいよなあ」とクリス。

クリスは趣味で、合唱団の指揮者もしている。ヨーデルの合唱団だそうだ。オーストラリアに40年もいるのに、何から何までスイス人だ。でも、分かる気もする。日本人でも、外国に暮らしていると、余計に日本人ぽくなる人がいるから(僕はそれほどじゃないと思うけど、少しはそうかな?)。ヨーデルは、日本人にも馴染み深い音楽かもしれないが、歴史も古く、声の出し方や和声が複雑な上、歌詞のスイス方言のドイツ語が特殊だから、相当年季を踏まないと上手に歌えないのだそうだ。スイスでは4年に一度ヨーデルのコンテストがあるそうだが「すごいシビアなんだぜ。日本から出場したグループもあったけど、おぼつかなくて審査外だったよ。勘所をつかむのが難しいからな。俺たちだって全然入賞できないんだ」。とクリス。

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クカバラ(ワライカケス)はオーストラリアの原生鳥

クリスは、庭に僕を誘い出し、一本のブナのような大木の根元からタネを拾った。「この種を集めているんだ。これもスイスの山に生えているのと同じ木だ。ほら、この殻には種が入ってないだろ?100個拾っても3個くらいしか実が入ってないんだよ。それをもう100個くらい拾ったかな。これを苗に育てて、友達にあげるんだ。そうやって、この木をオーストラリアにも増やしたいんだよ。そしたら、綺麗だろうからな。でも、こちらは気温が高すぎて発芽しないから、いったん冷蔵庫に入れて冷やすんだ。そうすると種は冬が来たと勘違いする。そのあと冷蔵庫から出すと、春だと思って発芽するんだよ。種を騙すんだ。面白いだろ?」とクリス。

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これはどんぐり

「へえー、不思議なもんですね」と僕。スイスの木、日本の木、いろいろな木がオーストラリアには植わっている。もし僕が木だったら、どう思うかな?人みたいに、どうして俺はこんなところに植わっているんだろうと思うだろうか?木は、何十年も同じところに植わっていたら、そう簡単に引っこ抜いて移せない。人もそうだ。僕がオーストラリアに来て22年。外国だろうが、どこだろうが、20年以上も同じところにいれば、そう簡単に引っ越せない事情もできてくる。家族や仕事や交友など。クリスのように孫が10人もできたらなおさらだろう。
散歩でいろいろな人に出会うのも、面白い。
posted by てったくん at 07:08| 日記